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母の日のグレード

つまり、縦方向に成長することに、全力が傾けられたのである。

その一方で、コア同士の横の連携も、ある程度はとりやすい規模だった。 九〇年代中盤から後半に向かって、日本では予想以上に長期化する不況に対して、企業は構造改革を進めざるを得ない状況に陥っていた。
それまでの年功序列制度や終身雇用制度が見直される。 実力査定主義による評価基準が実施されるようになり、早期退職制度やリストラも始まった。
右肩上がりの成長が困難を極めるなかで、巷では、成功に導くための新しいビジネス理論やシステムが盛んに取り沙汰された。 そして、新世紀に入った今も、その状況は変わらない。
しかし、一方的に理論で説得され、「やらされている」意識は、必ずや「こなし」仕事になってしまうものだ。 それよりも、理論を正確に理解した上で、「好きだからやる」田tいは、「実のある」仕事に結びついていく。
そして、そのためには、トップはもとより、社員の一人一人がリスクを引き受ける覚悟が必要だ。 好きという自由を獲得するためには、きちんと責任を全うする。
漫然と「サラリーマン」として過ごすのではなく、主体的に「何をすべきなのか」を見出して実行する。 市場が停滞するなかで、Bが組織として拡大を続けたのは、コアメンバーを主体として、自由と責任のバランスがとれてきたからと言える。
もともとBのなかでは、新しいことに挑戦する風土がある。 現状の延長線上に自分の居場所を見出すのではなく、リスクを冒しても進んでいくことが、当たり前のように身についているのである。

特に、各ユニットにおいて、縦に伸びるための挑戦が続けられた点は、組織を活性化するのに役立った。 「Bボーイ」や「Bモダンリピンク」など、新しい顔ができると、担当ユニットが作られ、ヘッドは新分野開拓に邁進したのである。
それはまた、「自分か言い出してやりたいといった強い思いは、縦軸で伸びるためのもっとも強い力」とSが指摘するように、個人のモチベーションを最大限に活かす仕組みでもあった。 人気企業になったため、若い世代の採用試験にも人が殺到するようになった。
新宿の厚生年金会館の大ホールを借り切って会社説明会をするほどの応募が来るようになったのだ。 勢い、社内も若い層の厚みが増してくる。
「もともとは、仲間感覚で和気蕩々とした雰囲気があったのがB。 しかし、今はその風土を知らない層が、若い社員のなかには少なくない」とKは見ている。
SからKの世代に受け継がれた濃いDNAは、同じ濃度では下世代に受け継がれえなかった。 アンチメジャーを標榜してきたやんちゃさ、知名度に寄りかからないよい意味のカジュアルさ、「何でもあり」の裏に潜む厳しさなど。
なぜなら、濃いDNAを伝えるには、創業メンバーであるSの考えを、自分なりに実感して咀喘できる土台が、伝えられる側にも必要だからだ。 「洋服屋」としての顔を手作り感覚で広げていった七〇年代後半から八〇年代にかけての空気感を共有してきたコアメンバーは、思いもかけない抜擢であったにせよ、B流を受け止めて実践していく素地はあった。

当初の志を貫きながら、峠を越えてきた経験が、DNAの素地になっている。 組織の巨体化によるジレンマしかし、日本経済が右府上がりだった時代を知らない世代が、若手社員を占めるようになってきた。
彼らが感じるB流とは、創業当時の濃さから見れば、薄まって広がっている。 「言葉ではない伝え方が必要だが、それには限界がある。
かといってマニュアル化できるようなものでもない」というDNAの継承は、今のBにとっての大きな課題だ。 また、組織が大きくなったゆえの悩みもある。
店舗数も業態も増え、社員は一九九五年の段階で二〇〇名たったものが、現在はその三・五倍にまで広かっている。 フットワークの軽さはBの身上だ。
しかし「直角に曲がれなくなってスピード感が変わってきた」とSは呟く。 実はユナイテッドアローズも、一九九九年から急激な店舗展開が足棚になって、減益を続けたことがあった。
規模の拡大に対して、適確な商品調達や販売員の育成が追いついていなかったのである。 それに対して、店単位の裁量を、組織としての裁量に引き上げるという策が講じられた。
商品調達については本部で商品分類と構成比をきっちり決める。 販売員教育はサービスの標準化を図る研修を徹底させる。
店舗には外部コンサルタントを入れて、全国レベルでの質を保つ。 つまり、組織を巨体化させる前哨戦としての土台を、縦横に巡らせたのである。
しかし、Bの場合は、この轍は踏まなかった。 あくまでBらしさを貫こうという姿勢がここに垣間見える。
ただ、そうなってくると、文鎮型でフラットな組織が逆効果に働く側面も出てくるのだ。 少人数からスタートした各ユニットは今や数十名の規模となり、ヘッドが抱える仕事は膨大だ。
そのため、以前は空気感を自然に共有でき、スムーズだった横の連携がなかなかとりにくくなっている。 Mは、「縦割りのなかでの自由度が高いことが、これまでのBのよさだった。

しかし、規模的には、そろそろ横のつながりを仕組みとして必要とする時期に入っていると思う」と見ている。 横割りはいくつかの方法で試みられている。
たとえばレーベルを横断して、共通の工場で生産するなどの実験をしているが、予想以上にテイストや好みが違って、手間隙がかかっているという。 Bの組織は、Sの思惑を超えて巨体化してしまったのか。
改めて組織のあり方を考える時期に来ているのが、今のBなのだ。 クリエイターや職人をプロデュースするファッションの視点で企業をマネジメントしていくには、「企業のアイデンティティを踏まえた上で、組織として斬新な企画力を打ち出していくこと」が重要だ。
それを、トップ自らが方向づけるケースもあれば、社内に優秀な企画マンを置くケースもある。 外部スタッフと有機的なつながりを持つ考え方も含まれるだろう。
Bは、組織としての斬新な企画力においては、他を圧倒している。 Sはもともと、何かの分野におけるクリエイターになることが夢だったという。
大学を卒業して広告代理店を志望したのも、CMプランナーになりたかったからだ。 とはいうものの、「生来のミーハーゆえに、何かひとつに絞り込むことができなかった」。
新しいこと、おもしろいことが大好きで、アンテナにひっかかるとすぐに飛び込んでしまう。 時代の風を一番に感じていたい。

そういったミーハー気質は、実は高校時代から薄々自覚していた。 「器用貧乏とは僕のこと」と思っていた。
傍から見ると、次から次へと新しい企画を思いつく“目を輝かせてそれを実践していく。 その資質は、クリエイターとしても、大成したに違いない。
が、当人は、何事もトップを極めたい性格だ。 わき目も振らずにひとつの道を極めることと、おもしろいことを同時併行で進めていくこと。
その両道でトップに立つのは難しいと判断した。 「どうせやるならミーハーの頂点になる」と決心したのだ。
しかし、その一方で「クリエイターや職人への憧れも相変わらずある」。 付き合っている仲間たちのなかには、おもしろいクリエイターが数知れない。
彼らとかかわると、「自身が専門にはまっているだけに、気がついていないよさが隠れている。


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